1. 研究ダイジェスト
- 肌へのダメージを減らし、優しく汚れを落とす新しい効率洗浄技術「Efficient Washing Technology(EWT)」を開発しました。
- EWTとは、動的表面張力の変化に着目した技術であり、洗浄成分を汚れに素早く吸着させることで洗浄力を高めるメカニズムです。
- この技術を活用した液体皮膚洗浄料(洗浄ブースト処方)は、液体を肌の上で流すだけで、こすらずに皮脂汚れや古い角質を洗浄できる画期的な洗浄料です(図1)。
- ひたし洗いすることによる角質のピーリング効果も確認しており、これまでの技術では難しかった、肌への低刺激性と適度なピーリング力の両立が可能となりました。
(図1参照)
2. 研究の背景
肌の汚れを落とすための化粧品には、石鹸をはじめ、クリーム、泡、ジェルなど様々な剤型の皮膚洗浄料があります。これらは、お肌のバリア機能を守りながら、しっかりと汚れを落としたいという消費者のニーズを満たすために進化をくり返しながら開発されてきました。しかしながら、肌想いな設計を目指すと汚れ落ちが悪くなってしまいますし、洗浄力を高めると肌への刺激やダメージが強くなってしまいます。洗浄料の開発者たちは、この相反する課題を抱え続けていました。
この問題を解決するため、当社は「泡でこする」のではなく、「液体を浸して汚れを浮き上がらせる」という、全く新しい洗浄のコンセプトの「液体皮膚洗浄料」を考えました。泡を維持する為に必要だった界面活性剤は不要になりますので、肌への刺激につながる界面活性剤の量を極力減らすことができ、結果として肌へのダメージを抑えられるという発想です。この肌に化学的・物理的なダメージを与えずに、液体で汚れを優しく取り除くことができるという肌想いな洗浄料を生み出すために、水に溶ける油剤(water-soluble oil)によって界面活性剤の洗浄力を引き出す洗浄ブースト機構を確立しようと考えました。

3. 効率洗浄技術(EWT)の確立と洗浄ブースト処方への応用
概要
液体皮膚洗浄料の開発にあたり、洗浄の主成分として、皮膚への刺激性が低く安全性の高い、アミノ酸系界面活性剤「ラウロイルアスパラギン酸Na」(引用文献1)を用いました。この界面活性剤の洗浄作用を高める目的で、いくつかの水に溶ける油剤(water-soluble oil)を組み合わせ、洗浄ブースト効果の高い油剤のスクリーニングを行いました。また、開発した液体皮膚洗浄料の洗浄力の評価も行いました。
結果
洗浄挙動を探るために、動的表面張力を測定しました。その結果、アミノ酸系界面活性剤「ラウロイルアスパラギン酸Na (SLA)」と組み合わせる水溶性油剤の中で、両親媒性エステル「シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール (BECD)」と組み合わせた場合に、液体の表面張力が最も低下していました。
つまり、両親媒性エステル (BECD)にはアミノ酸系界面活性剤 (SLA)が汚れに作用する速度と洗浄の効率性を高めることができるということがわかりました(図2)。

1%ラウロイルアスパラギン酸Na水溶液に、水溶性油剤を1%添加したときの動的表面張力の変化を測定した。動的表面張力の測定には、バブルプレッシャー式動的表面張力計(BP100,クルス社製)を用いた。試薬の温度は25℃にて測定を行った。
また、モデル皮脂を塗布した腕に液体皮膚洗浄料を滴下し、水流による洗浄力を評価したところ、両親媒性エステル (BECD)自身にはモデル皮脂を洗浄する作用は認められなかったものの、低濃度のアミノ酸系界面活性剤 (SLA)と併用した場合では、両親媒性エステル (BECD)の濃度に比例して、皮脂の除去力を高めるということがわかりました(図3)。

皮脂のモデル汚れは、引用文献2を参考とし、カーボンブラックを0.4wt%配合した人工皮脂を用いた。男女計6名の皮膚にモデル汚れを3.0mg塗布し、直径1.2cmの円になるよう均一に塗り広げた後、分光測色計(CM-700d,コニカミノルタ社製)にて測色を行った。試薬10mLを一定速度で流し、水流のみでモデル汚れを洗い流した後、再度分光測色計にて測色を行い、洗浄前後での洗浄率(%)を算出することで洗浄力を評価した。
洗浄率の算出には下記の式を用いた。
洗浄率 (%) = ΔES*/ΔEO* x 100
ΔES*: 洗浄前後の皮膚色の差、ΔEO*: モデル皮脂塗布前後の皮膚色の差
データは平均値±SDによってプロットした。*P<0.05, **P<0.01 (One-way ANOVA followed by sidak’s test)
考察
界面活性剤の分子が集まってできたミセルは、離散と集合を繰り返していると言われており、ミセルから離散した分子が汚れに吸着することで洗浄力を発揮します。今回の研究によって見いだされた液体皮膚洗浄料は、界面活性剤「ラウロイルアスパラギン酸Na」のミセル(分子の集まり)の中に、両親媒性エステル「シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール」が入り込むことで、ミセルの構造がゆるんだ結果、素早くバラバラに分散した界面活性剤が汚れの表面により早く、よりたくさん吸着できるようになり、洗浄力が大幅に高まったと考えられます(図4)。
本検討によって見いだされた洗浄ブースト機構をEfficient Washing Technology(EWT)と名付けました。この機構を液体皮膚洗浄料の基盤技術として活用することで、従来技術よりも肌の刺激となる界面活性剤の量を減らすことができますので、今まで以上に肌想いな設計の製品開発が可能となります。

発表先
1)第35回 国際化粧品技術者会連盟学術大会 2025(IFSCC France – Cannes Congress 2025):ポスター発表
2)香粧品科学研究開発専門誌 フレグランスジャーナル 2023年12月号
4. 洗浄ブースト機構を有する液体皮膚洗浄料は、角質ピーリング作用を有することを確認
概要
上記の検討により、界面活性剤「ラウロイルアスパラギン酸Na」と両親媒性エステル「シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸ビスエトキシジグリコール」を組み合わせることで、皮脂などの汚れに対する洗浄力が高まることがわかりました。しかしながら、キメが整ったきれいな肌をメンテナンスするためには、皮脂汚れを落とすだけでなく、くすみやごわつき、バリア機能低下の原因となる古い角質を取り除くことが非常に重要です。そこで、この液体皮膚洗浄料(洗浄ブースト処方)がヒトの古い角質などの汚れに対してピーリング力を発揮するかどうかを検証しました。
結果
液体皮膚洗浄料による古い角質のピーリング効果を調べるため、ヒトの上腕内側部に液体皮膚洗浄料を滴下し、皮膚をひたしながら洗いました。すすぎ液に含まれている角質細胞の数をカウントしたところ、界面活性剤と両親媒性エステルを組み合わせた洗浄ブースト処方のほうが、界面活性剤のみでひたし洗いをした場合よりも多くの角質を除去していました(図5)。

内腕部に各試料を滴下・浸漬し、水流で皮膚を洗浄した。すすぎ液をエッペンチューブに回収し、遠心分離した後、沈殿した角層数をカウントした。データは平均値±SDによってプロットした。*P<0.05, ***P<0.001 (paired t-test)
考察
本検討により、両親媒性エステルを配合した液体皮膚洗浄料で皮膚をひたし洗いをすることで、より高い角質のピーリング効果が得られることが分かりました。
前述した通り、両親媒性エステルと界面活性剤を併用することによって、単一の界面活性剤分子が古い角質をつなぎとめているお肌の中の接着タンパク質に作用しやすくなり、角質のピーリング作用を高めたと考えられます。
角質をピーリングする手法として、ピーリング剤によるケミカルピーリングや、スクラブ剤などを配合した洗浄料による物理的なピーリングが知られていますが、今回開発した液体皮膚洗浄料は、低刺激性と適度なピーリング力を両立できる可能性を秘めています。低濃度の界面活性剤でやさしく洗えるにもかかわらず、酵素洗顔のような角質ピーリング作用を発揮する洗浄ブースト処方の可能性を今後も追及していきます。
発表先
1)第35回 国際化粧品技術者会連盟学術大会 2025(IFSCC France – Cannes Congress 2025):ポスター発表
2)香粧品科学研究開発専門誌 フレグランスジャーナル 2023年12月号
5. まとめ
この研究により、洗浄力と肌へのダメージ軽減という、両立が難しい課題を、効率洗浄技術(EWT)という全く新しいアプローチで解決できる可能性を示しました。
EWTをもとに開発した「液体皮膚洗浄料」は、泡やジェル剤型の洗浄料と異なり、界面活性剤や増粘剤などを最小限に抑えることができるため、肌がデリケートな方にも優しい、肌想いな洗浄料として期待されます。
また、液体という自由度の高い剤型であるため、これまでの洗浄剤では実用化が不可能だった製品への応用の可能性も広がります。例えば、手軽かつ効率的にピーリング作用を発揮できるシート状皮膚洗浄料や、ミスト状の摩擦レスな皮膚洗浄料など、従来技術からは考えられない新たな価値の提案も可能です。今後は、EWTという新しい洗浄メカニズムをさらに詳しく解明し、洗浄ブースト処方を軸とした肌想いな洗浄料へと応用してまいります。
引用文献
- 高瀬浩行 他, Journal of Japanese Society of Tribologists, 65 (6), 376-382 (2020)
- 橋本文章、春山道子、山下登喜雄、磯敏明:「界面活性剤の皮膚への吸着性と洗顔料による選択洗浄性」、日本化粧品技術者会誌、23, No.2, 126-133 (1989)
